嫁を動かす

HOW TO WIN WIFE AND INFLUENCE PEOPLE

ダブルアメリカーノ

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エスプレッソコーヒーに熱いお湯を注ぐとアメリカーノと呼ばれる。

 

日本人はアメリカンだと思って、スタバでアメリカーノを注文するが全然違う飲み物だ。薄いコーヒーだと思ってアメリカーノを飲むと、苦い思いをすることになる。

 

アメリカーノにエスプレッソをさらにもう一杯追加したらダブルショットのアメリカーノ。略してダブルアメリカーノだ。通なスタイルだと思われるかも知れないが、苦くて飲めたもんじゃない。


西に太平洋、東にカナディアンロッキーを見晴らすカナダ、バンクーバーのダウンタウン、 デイビーストリートとビュートストリートの交差する角に、ブレンツコーヒーというカフェがある。

 

学校帰りそこに立ち寄り、アンニョイな午後のひとときを過ごすのがワタクシの日課だった。

 

店はいつも、やる気のないパッキンのオネーチャンがダルそうに働いている。カウンター越しに挨拶をすると、ダブルアメリカーノのトールサイズを頼む。


初めてこの店に来た時の苦い思い出がある。カフェラテを頼んだのに、”ラテ”が通じない。ラティ!ワッツ?ラティエ!ンン?ラッツイエ!ハン?という不毛な会話が繰り返され、あきらめてアメリカーノを頼んで以来、ずっとアメリカーノだ。

 

せめてもの抵抗でダブルのアメリカーノにして、苦い経験を忘れないことにした。

 

ダブルアメリカーノと一緒に、気まぐれでよくチョコブラウニーを1枚買った。苦いコーヒーにクソ甘いチョコがよく合っておいしかった。


紙コップを手に持つと、そのまま外のテラス席の一番端に座り、マルボロに火を付ける。ほどなく、隣のリカーショップの前で物乞いをしているホームレスのオジサンが近づいてくる。ギブミーサム。

 

このオジサンは以前、気の優しいワタクシがタバコを1本恵んであげたのを良く覚えていて、それ以来、必ずくれるもんだと思い込んでいた。たまに調子に乗って2本目を貰いに来るのだが1日に1本しかあげない。体に悪いし。

 

一息ついてコーヒーをすすっていると、学校から帰ってきた友達が前の道を通りかかる。 時間を忘れ、たわいもない話をしているといつの間にか夕陽が海に沈んでいった。


ワタクシは、この場所で街を眺めているのが好きだった。怪しげな葉っぱを売りに来るエミネムみたいなニーチャン、道端でチュッチュしているゲイのカップル、日本人はみんな白いマスクをしているけど、あれはとても親切だと思うと、よくわからない話をしてくるフランス人のジーチャン。

 

頭にクソでかいターバンを巻いたヒゲもじゃのインド系のオジサンもいた。このオジサンはワタクシの住んでいたアパートの警備員をしていたので、顔見知りだったのだが、会う度にハグを求めてくるので、若干メンドクサかった。

 

初めて外人にファ〇クユー!と言われたのもここだった。ただのボケた白人のバーチャンだったが、すれ違う人全員にファ〇クユー!と言っていた。


ある日、いつもと同じようにコーヒーをすすっていると、隣の席に青いジャケットを着た同い年くらいの女の子が座った。横から見ると一目で巨乳だとわかった。ワタクシは大きさ以上に角度を重視している。英語でアンゴォー。

 

顔を不自然に斜めに傾け、角度を慎重に測った結果、ベストな公差内に収まっているのを確認して無意識の内に声をかけた。ホームレスのオジサンに見守られる中、ワタクシの気迫に押されたのか、彼女は差し出したコーヒーのスタンプカードに連絡先を書いてくれた。

 

コーヒーを1杯飲んだらスタンプを1個押してもらえるそのカードが、全部たまる頃には、その子と付き合うようになっていた。


この場所で友達がどんどん増えていった。友達とおしゃべりをしていると、友達の友達が通りかかる。そして、なんとなく顔見知りが増えていく。そうやって友達になった中に、一緒にルームシェアをすることになるドレッドヘアーの山田君もいた。

 

山田君ともよくここで将来の夢や恋愛の話など、若者らしいことも語り合った。彼は風呂でカメを飼いたいといつも言っていたが、絶対ダメだとワタクシは頑なに拒否していた。

 

ケンカをするのもここだった。隣の部屋で毎日セックスしていたのは悪かったと思う。でも、苦いことは飲み込んで楽しく過ごそうという気持ちにさせてくれる、そんな雰囲気がここにはあった。バンクーバーを離れる日、最後に訪れた場所もここだった。


日本に帰って来てから苦い経験をたくさんした。会社では人間関係に苦労した。嫁姑とも苦い思いを重ねている。ただ、おっぱいがそうであるように、人は見る角度によって良くも悪くも見えるということに気づいた。

 

大切なのは、多様性を認めることだと思う。文化、宗教に肌の色。育った環境、タバコを吸うか、おっぱいが大きいか、風呂でカメを飼うか。多様性を認めることは、自分を認めることになる。多様性は強さだ。

 

青いジャケットを着た彼女も虫歯だらけで口が臭かった。ワタクシもワキが臭かったし、山田君は頭が臭かった。いつもハグしてきたターバンのオジサンはよく考えたらゲイだった。多様性を尊重すればお互いの良いところを見ようと思える。


日本に暮らす今でも、ワタクシはテラス席のあるカフェが好きだ。一人でポツンと座りながらコーヒーをすすっていると、向こうから友達がやってくるような気がする。

 

おっぱいが大きいから口が臭いのか、口が臭いからおっぱいが大きいのか。甘過ぎるチョコブラウニーだから、苦いダブルアメリカーノがおいしくなるのか。

 

酸いも甘いも苦いも混ざりあってこそ、コクのある風味が生まれる。

 

おっぱい揉みたい。

 

 

 

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