ピーマンの肉詰めに虹をかけた件
アンニョイな午後。愛する嫁がなぜか狂ったようにピーマンを買って来た。
一瞬、ワタクシが隠れて絵本作家にデビューしたのがバレたかと思ったが、どうやらピーマンの肉詰めを食べたいだけらしい。
若干安心しつつ、メンドクサイ料理に取り組むことにした。
さっそくピーマンを切っていると、お手伝いをすると言って邪魔しにくる娘氏が参戦。余計に作業が増えるが宿命と受け入れる。
娘氏にはピーマンの種取りをお願いすれば、しばらく水遊びをしてくれるので放置できる。ひき肉をこねてたまねぎを切って、さぁ勇気を出し~と歌いながら素早くタネを作る。
本日の山場、肉を詰める工程に差し掛かると、目ざとく面白そうな作業を発見した娘氏がとにかく肉を揉ませろとウルサイ。
しょうがないので机に座って、娘氏と一緒に肉を詰める。詰める。娘氏がなぜか上から目線で作業方法を指示してくるのを大人しく聞かなきゃいけない。
指導者の娘氏が4個肉を詰める間にワタクシは36個詰めて焼き入れ開始。順調に焼きあがり家族が集まり夕食の始まり。やっと心穏やかにゴハンが食べられるかと思いきや、ピーマンの肉詰めに何をかけるか?で紛争が発生した。
ワイ:レモン醤油
嫁:ポン酢もしくはウスター
姑:とんかつソース
娘:ケチャップ
意味がわからない。ケチャップやポン酢ならまだ許せる。百歩譲って嫁のウスターはまだわかる。が、とんかつソースはない。いや、ないわ。だが、余計なことを言うと火の粉が飛んでくるので黙るワタクシ。
しかし、無抵抗・不服従を貫くワタクシにBBA(姑)がレモン醤油は塩分が濃いと人格攻撃を始める。若干イラついたが、モンロー主義も持ち出して耐えるワタクシ。が、食卓の上は嫁と姑の戦いに娘も参戦して火の海と化してしまった。
ワタクシはピーマンのように青い顔になりながら、尊敬するD・カーネギー先生の名著「人を動かす」を開くことにした。
不快な状況に直面したとき、まずあらわれてくるのは、自分の立場を守ろうとする本能だ。気をつけねばならない。冷静にかまえ、最初の反応を警戒する必要がある。あなたの最悪な人がらが突出し、最善の人がらがかくれてしまうかも知れないのだ。
「人を動かす」164ページより引用
なるほど。やっぱり黙っているのが良さそうだ。誰が言ったか沈黙は金なのだ。
しばらく、黙って見ているとワタクシの精神的指導者である娘氏が、レモン醤油派に転向してBBAの旗色が悪くなる。やはり子供は正直だ。
ところが、バランス感覚に優れる指導者は何を思ったか、我が家の最終兵器、焼き肉のタレ「宮殿」を取り出し、ピーマンの肉詰めにかけ始めた。
おかげで食卓の上は、ソースやら醤油やらタレの見本市状態となり、混迷する世界情勢のようになってしまった。もう世界は破滅へ一直線かと思われた。
しかし、それは奇跡であった。厭世主義に傾きながらワタクシが食卓を離れようとしていると、娘氏が動いた。
肉を詰める時に、余ったタネで一つだけ小さなハンバーグを作らせてあげたのだが、娘氏はそれにケチャップとレモン醤油にウスターと宮殿が混ざったスペシャルソースをつけて食べ始めた。
満面の笑みでおいしそうにハンバーグをほおばる娘氏は、戦場に虹をかけてしまった。つまらないことはまぜ合わせてしまえば良いと気づかされたワタクシは、そのソースをレインボーソースと名付け、我が家の歴史に深く刻んだのであった。
今夜の食卓に一冊いかがですか?↓