甲子園球場の甘くておいしい思い出を作った件
ワタクシが小さい頃、仕事人間だったトーチャンと遊んだ思い出はほとんどない。唯一鮮明に覚えているのは、幼稚園くらいの時にニーチャンと一緒に甲子園球場に連れて行ってもらった時のことだ。
ライトスタンドはほぼ酒臭いオッサンで、そこかしこから紫煙があがり、ヒットを打たれる度に後ろの方から生ビールが入ったコップが投げられて、そこら中でケンカが発生する修羅の国のような状態だった。
ライトを守っていた巨人の駒田に容赦なく「ゴラァーウマー!!」と飛ばされるヤジ。最初は無視していた駒田も7回くらいについにキレて客のオッサンとケンカを始めていた。こんな恐ろしい場所があるもんかと子供ながらに感動した記憶がある。
アンニョイな連休。タイガースちびっ子ファンクラブ会員の娘氏を筆頭に一族で甲子園に出かける。というかすでに今シーズン4回目の甲子園となっている。熱狂的な阪神ファンの嫁がチケットをやたら取るので付き添いで参戦しているだけだが、家族サービスも悪くないと思う。
電車を乗り継いでやってきた甲子園は、連休中ということで超満員。おしっこするのにも一苦労の中、いつしかの記憶を思い出しながら野球観戦。
野球のルールがよくわかっていない娘氏は、嫁とお弁当を金本監督弁当にするか、トラッキー弁当にするかで白熱した議論を交わしていた。彼女の思い出がどんなものになるのか父として一抹の不安を覚える。
鳥谷鳥一番幕の内デラックス弁当を食べながら、たまにやってくるチアガールのオネーサンを楽しみに観戦する父。
席の後ろでは、激酔いしたオジサン3人組がひたすらチューハイ巨峰を飲みまくり、へべれけになって得点を入れられる度に、上から酒をこぼすものだからワタクシのカバンが酒でビチョビチョになった。
「大したことないねん、大したことないねん」と言い訳するオジサンだったが、娘氏が睨みつけるもんだから7回くらいで申し訳なさそうに帰っていった。
そんな娘氏もジェット風船を周りのオジサン達に手伝ってもらいながら膨らませて飛ばす頃には、テンションがあがりメガホンを振り回してキケンな状態に。
注意しても言うことを聞かない狂戦士(バーサク)状態になってしまい、ワタクシがキレそうになったので尊敬するD・カーネギー先生の名著「人を動かす」に書かれていたことを思い出した。
人間や動物の実験によって、批判を控え、ほめるほうに力点を置けば良い行動が定着し、悪い行動は抑制されることを立証している。<中略>世間には、父母が子供たちをどなりつけるのが、おもな対話になっている家庭が多い。
「人を動かす」298ページより引用
大阪で暮らしていると、行楽地なんかで若くて昔はヤンチャしていたっぽいパパが、自分に似てヤンチャに育った息子達を巨人の駒田にヤジを飛ばすがごとく「ゴラァ!」とマジギレして、「ゆうこと聞かんかったらシバくぞ!」と怒鳴るあたたかい光景をよく見かける。
それで子供たちはその場は一応言うことを聞くのだが、キレるトーチャンの目の届かない場所に来ると、バーサクに豹変して手が付けられなくなる。
つまり、恐怖で子供に言うことを聞かせる方法は悪手であると、良い見本となって教えてくれている。
ワタクシは冷静になり娘氏の手を引いて、とある売店に連れていくことにした。ディッピンドッツのアイスクリーム屋の前に来ると、いい子にはアイスクリームを買ってあげると伝える。
「いい子の人!」と聞くと、娘氏はまったく言うことを聞かないのに元気よく「ハイ!」と手をあげる。
そうしてアイスを手にすると、娘氏は食べるのに夢中になってバーサクの状態異常から回復する。現状でワタクシが行き着いた最適解である。
これがいいのか悪いのか知ったことではないが、父にキレられて落ち込むよりは甘くておいしい思い出になってくれるとワタクシは信じている。
そんな感じで、なんとか娘氏のバーサク化を避けながら連休後半には旅行にも行ってきたのだが、その話はまたの機会に。